巻頭言 日本実験動物医学会における百家争鳴のすすめ 会長 前島 一淑 (慶應義塾大学医学部実験動物センター) 日本実験動物医学会(以下「実験動物医学会」は)、獣医学的な観点から実験動物 学の研究と教育を推進することを目的として、平成5年4月1日に日本獣医学会の1分 科会として正式に発足しました。以来、日本獣医学会総会の折りに実験動物学関連 の一般演題と教育講演、シンポジウム等の特別企画を開催し、ニュースレター発行 は今回で第10号を迎え、また、明年4月には第3期の役員に交代します。 正直なところ、実験動物医学会の活動が設立時の意図の通りに進行したとはいい難 いのですが、それでも、特別企画や会報発行の他に、曲がりなりにも認定獣医師制 度案を纏めることができました。また、表立った成果とは申せませんが、実験動物 専門家と獣医学研究者の交流も進み、実験動物医学という領域が日本獣医学会の中 で完全に認知されたとみてよいと思います。 さて、5月22日開催の理事会で、長く、激しく、そして慎重な議論があった認定獣医 師制度案(本誌12〜13頁)を第126回日本獣医学会(実験動物医学会)の折りの「臨 時総会に」に提出して賛否を問う方針が確認されました。7月初旬に臨時総会のご案 内を会員各位宛に送りますが、その前の6月30日には、東京都獣医師会生物医学支部 (藤原公策支部長)と合同でシンポジウム「獣医師の専門医制度を考える」を開催 する予定です(本誌14頁)。 現在でもいくつかの異論があることは承知しておりますが、平成10年度実験動物医 学会総会(第125回日本獣医学会、宇都宮)において申し上げましたように、この制 度は、獣医師を対象とした獣医学的管理に関する生涯教育の一環としての制度であ って、獣医師だけが実験動物専門家であるとする立場、あるいは、認定獣医師の利 益を守る目的ではありません。 実験動物学は、さまざまな専門分野の方々が協力して発展させるべき性格のもので す。実験動物に関わる専門知識、技術の中で、獣医師が担当すべき実験動物の疾病 の診断、治療、予防や麻酔処置(苦痛軽減)について、獣医師の責任感と自己研修 の努力を促す制度です。獣医学以外の専門分野に関する実験動物医学会内での研修 、認定の要望があれば、つぎの段階としてそのような制度の検討を始めてもよいと 思います。 最近、認定獣医師制度とはまったく別の社会的な問題が生じています。昨年来の中 学生等による凶悪事件の多発に危機感を募らせた自民党内で、青少年健全育成に関 するさまざまな方策の1つに動物を利用した情操教育のアイデアが生まれ、その実施 のために「動物の保護及び管理に関する法律(以下「動管法」)」改正の機運が生 まれました。 たまたま機を同じくして、動物保護/福祉/権利団体から、動物愛護の観点からの 動管法改正の要望が自民党に寄せられ、自民党の青少年健全育成という趣旨とはま ったく異質ですが、両者は同法の改正という点で一致して共同歩調を取り始めまし た。この経緯は、(社)日本実験動物協会の機関誌「日動協会報」第76号(平成 10年5月号)22〜23頁に「トピックス」として記されておりますから、興味のある方 はそれをご覧下さい。 実験動物医学会としましては、この問題は決して対岸の火事ではありません。実験 動物医学会は、動管法改正の問題に限らず、実験動物の福祉や動物実験の倫理に関 する明確な態度表明が求められていると理解すべきでしょう。しかし、この問題に 対する回答はきわめて多様であって、短期間で結論が出せる性質のものではありま せん。 認定獣医制度についても、多くの解決すべき問題が残されています。実験動物福祉 や動物実験倫理を含めて、実験動物医学会の中で百家争鳴が起こることが期待され ます。ここでは、認定獣医師制度と動管法改正に限って述べましたが、その他の問 題を含めて、会長である私あるいは役員である理事の方々へのご意見、提案を歓迎 します。
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