脳障害モデルと脳の発生分化メカニズム (WS-20-4) 御子柴 克彦 (東京大学医科学研究所 化学研究部) 脳は一つの臓器でありながら、個体全体を制御する臓器である。脳を研究すること は個体そのものの理解につながると言える。脳の1000億個の神経細胞と、それより も一桁多い数のグリア細胞も、外胚葉の一部が神経板へと分化することから始まる 。脳の発生・分化のメカニズムとその異常のメカニズムとは一つの現象を異なる局 面で見ているものと考えてよい。ヒトの神経疾患は、正常発生の過程で障害を起こ したために生じるものでその理解の為には正常の発生分化のメカニズムの解明が十 分になされることが必要である。最近の私達の研究の一部を紹介する。 1)神経系の運命決定因子(neural inducer)としてのZic:Zicはマウス小脳顆粒細 胞に強く限局して発現する分子として我々の研究室で発見したzinc figer motifを 持つ転写因子である。欠損マウスは小脳のパターン形成や脳の形成に大きな障害を 及ぼした。2)てんかんと小脳運動機能に重要なIP3レセプター:IP3受容体は小胞体 に局在するCa2+チャネルである。この欠損マウスは、てんかんと小脳失調の複合症 状を示し、ヒトで使用されている抗てんかん薬によりてんかん症状が消失したこと から抗てんかん薬開発のためのよいモデルマウスになると考えられる。3)Srcチロ シンキナーゼ結合蛋白(mDab1)の異常による皮質構築異常を起こすyotariマウスと CR50抗原/リーリンの異常によるリーラーマウス:両ミュータントとも大脳皮質、海 馬、小脳、オリーブ核などの皮質構造に異常がある。特に大脳皮質において第2層か ら6層の位置が逆転している。リーラーと同じ脳の形態形成異常を引き起こす yotariミュータントマウスは交配実験よりyotariはリーラーとは異なる遺伝子座で あることが明らかとなり、しかもリーラーとは異なりCR-50/reelinを発現していた 。yotariの原因遺伝子はSrcチロシンキナーゼのSH2ドメインへの結合蛋白質である ショウジョウバエdisabledのマウスホモログの遺伝子であるmDab1であることを明ら かにした。これらのミュータントは滑脳症のモデルとしてその原因が多様であるこ とを示している。
Return to No.10 index.