公衆衛生学分科会・日本実験動物医学会合同シンポジウム
「わが国におけるズーノーシスの現状と対策 」
開催の主旨
 前島  一淑       高島  郁夫
(慶應義塾大学医学部実験動物センター) (北海道大学獣医学部獣医学研究科)


この数年、わが国で空前の規模で流行した腸管出血性大腸菌O-157による集団感染、
英国に端を発するウシ海綿状脳症の騒ぎ、さらにはアフリカにおけるエボラ出血熱
の再流行など、新型ズーノーシスの出現により国民の健康は大きく揺さぶられた。
このような状況を踏まえ平成9年の厚生白書は感染症対策に全力を上げるとの内容と
なっている。これまでのわが国の感染症対策の拠り所である伝染病予防法は百年ほ
ど前の1897年(明治30年)に制定されたもので、近年、国内外で流行している新興
・再興感染症に充分な対応が取れないため法改正が検討されている。これまで獣医
学において家畜由来の結核、ブルセラ病などの重篤なズーノーシスは家畜伝染病予
防法により、摘発・淘汰方式で対策がとられてきたため国内ではほとんど発生が見
られなくなった。さらに食肉検査事務所において食用家畜は、と畜場法により1頭毎
の厳しい検査がなされてきたため、重篤なズーノーシスの発生は防止されている。
しかしわが国の各種家畜は健康でありながら、サルモネラ属菌や病原性大腸菌など
を保菌しているため、食肉や鶏卵を介したこれらの細菌によるヒトの健康被害が継
続的に発生している。ここで問題となっているのが家畜の生産側およびと畜場から
始まる食肉処理加工側の協力体制が必ずしも円滑に行われていない点である。今後
は「農場から食卓まで」の一貫した衛生管理により畜産食品の安全性確保に貢献す
ることが獣医学の社会的責務となっている。
伴侶動物、実験動物や野生動物由来の各種ズーノーシスについては、これまで日本
獣医学会の各分科会で診断法の開発、疫学調査や原因微生物の生態について多くの
研究がなされてきた。実験動物の分野では過去に実験用ラットのハンタウイルス感
染症の清浄化やサルのB-ウイルス感染症の自主検疫などの努力によりヒトへのズー
ノーシスの発生防止に努力が払われてきた。サルなどの霊長類はB-ウイルス感染症
以外にも、結核や赤痢など重篤なズーノーシスの原因病原体を保有しているため、
特に注意を向けなければならない。また公衆衛生の分野では狂犬病予防法の施行と
先達の努力によりイヌの狂犬病は国内から撲滅された。しかし伴侶動物と野生動物
おけるズーノーシスについてはこれまで多くの調査・研究により汚染実態が指摘さ
れているにもかかわらず、予防対策が充分でないため、患者が継続的に発生してい
る。この最大の原因として、家畜以外の動物に由来するズーノーシスを予防するた
めの法体制が整備されていなかったことが考えられる。
今回、これまで各種ズーノーシスに関して調査・研究を継続してきた公衆衛生学分
科会と日本実験動物医学会が合同してズーノーシスに関するシンポジウムを企画し
た。両分科会が対象とする動物種は一部共通しており、さらに各ズーノーシスの診
断法、調査方法や予防対策などは多くの共通の内容を含んでいる。厚生省の感染症
対策に関する法改正が行われ、その中にズーノーシスが対象疾患として組み入れら
れる機会に、両分科会の会員が合同して、ズーノーシスの現状につきそれぞれの立
場から討論を深め、今後の予防対策に役立てることを期待する。




第二部:実験用動物の人獣共通感染症の実態と対策について
―サル類由来の人獣共通感染症―
1 Bウイルス病以外のウイルス性新興・再興感染症

吉川  泰弘
(東京大学大学院農学生命科学研究科)

サル類に由来するウイルス性人獣共通感染症には、マールブルグ病、エボラ出血熱
、モンキーポックスのような、新興感染症に分類されるものがある。またヒトの重
要なウイルス再興感染症である黄熱やデング熱の森林型はサル類と蚊の間でウイル
スが行き来している。さらにBウイルス病はマカカ属サル類に持続感染している人獣
共通感染症である。このほかヒトからサル類に感染し、またヒトに感染するウイル
スとしてA型肝炎ウイルスが知られている。ここでは、Bウイルスを除く、主要なサ
ル類由来の人獣共通感染症について述べる。
1.マールブルグ病
1967年、当時の西独マールブルグ、フランクフルト及びユーゴスラビアのベオグラ
ードでポリオワクチン製造のためにウガンダから輸入したアフリカミドリザルが感
染源となり突然発生した。この時の感染者は31名で7名(23%)が死亡している。そ
の後1975年に南ア連邦で3名が発病し1名が死亡している。1980年にはケニアで2名の
患者が出ており(1名は医師で感染後回復した。1名は死亡)、また1982年南アで、
1987年ケニアで散発的に感染が起こっている。自然宿主は分かっていないが、原因
ウイルスはエボラウイルス同様フィロウイルスに属している。
2.モンキーポックス
1958年 Von Magnus らがシンガポールからコペンハーゲンに到着したカニクイザル
が全身発痘した症例を見つけモンキーポックスと名付けた。その後1959年と1962年
に研究所で、1964年動物園などで流行がみられている。自然宿主はサル類ではなく
、野生のリスがリザーバーとして疑われている。ヒトでは小児の感染が多く1970年
から1984年にかけてザイール(148例)、中央アフリカ共和国(5)、リベリア(4)
の他に、ナイジェリア、カメルーン、コートジボワール、シエラレオーネで感染が
報告されている。症状はヒトの天然痘に類似しており、ヒトからヒトへの2次感染も
知られている。1996年2月から8月にかけてザイールで再び流行があり、92名が感染
し3名が死亡している。従来の感染に比べて、感染率が高く、死亡率が低いのが特徴
である。種痘の廃止が感染率を挙げる可能性が危惧されている。  
3.エボラ出血熱
現在エボラウイルスは、遺伝子の近縁関係から4種類に大別されている。このうち
3種類はヒトに感染した場合致命率が高く、いずれもアフリカ大陸起源である。他の
1種類はアジア産のサル類が感染し、サル類にとっては致命率が高い。ヒトは希に感
染するが、発症することはない。
ザイール株は最も致命率の高いウイルス株で、これまで1976年(280/318:死亡者数
/発症者数、88%)、1977年(この時は1例死亡、隔離されていたため2次感染は無か
った)、1995年(244/315,77%)に流行している。いずれも未知の自然宿主からヒ
トに伝播し2次感染により流行が拡大している。
スーダン株は、1976年(151/284, 53%)、1979年(22/34, 65%)に流行している
。ザイール株に比べてヒトでの致命率はやや低い。コートジボアール株(1994年)
と1996年のガボンの流行は、いずれもチンパンジーが感染し、死亡したチンパンジ
ーを解剖した際に感染したケース(1994年、1例感染で生存)と、死亡したチンパン
ジーを食べたといわれているケース(1996年, 22/37,59%)である。またガボンで
は1996年から1997年にかけて、もう一度エボラ出血熱の流行(45/61, 74%)が起こ
っている。
レストン株は、1989年米国バージニア州レストンのサル検疫施設でフィリピンから
輸入されたカニクイザルの間で初めて流行がみられた。その後1990年に米国で、
1992年にイタリアで、また1996年米国のテキサスで流行が起こっている。これらの
サルは全てフィリピンの同一サル輸出業者に由来しており、同社では1996年繁殖施
設内で大規模な流行が起こっている。サル類での死亡率は40%(163/403)である。
これまでサル類の飼育者で4名がレストン株に感染したことが明らかになっているが
、発症はしていない。エボラウイルスのヒトからヒトへの感染は、ウイルスが患者
の血液、分泌物、排泄物から、皮膚粘膜の傷口等を通じて侵入することにより感染
する。性交感染もある。




2 Bウイルス感染症について
佐藤 浩
(長崎大学医学部附属動物実験施設)


サル由来の人獣共通感染症は数多くあるが、昨今、それらの中でもわが国で全国的
にサルのBウイルス感染症が話題となっている。特にサルの場合は、実験分野がかつ
てのワクチン製造のための資材やワクチンの安全性試験分野だけでなく、ライフサ
イエンスの進展に伴って、例えば臓器移植・ニューロサイエンス、人間工学等で使
用する例が増えてきている。このことは従来のサル取扱い専門家ばかりでなく新し
い分野に参入してきた研究者を含めて、ヒトのBウイルス感染に対して充分な注意を
示唆している。また、1996年度、わが国の国立大学動物実験施設飼育中サルにおけ
る抗体調査を行った結果、我々実験動物関係者が最も頻繁に接触する機会があるマ
カカ属サル(アカゲザル、カニクイザル、さらにニホンザル)において後述するよ
うな抗体陽性サルが検出されている。
1.ウイルスの分離と危険度
Bウイルスの分離は米国ではすでに1933年にGayとHoldenにより、さらに1934年に
SabinとWrightによって報告されていて、その名前は前者が“W”、後者が“Bウイル
ス”と各々付けられた。しかし、その後一般的にはBウイルスと呼ばれている。一方
、わが国でも1960年にタイワンザルから分離されている。このBウイルスはわが国の
指針(感染研及び国動協案)では最高位の4である。しかし、米国CDC及びNIH発行の
Biosafety in Microbiological and Biomedical Laboratories、第3版(1993年)の
Recommendation Precautionによると、一般的なサルの組織や体液、サル由来組織培
養の際にはレベル2の研修経験と施設を使用すべきとなっており、Bウイルス(抗体
)が陽性とわかっているサルを使用する時や、ウイルスを単に診断用程度の低レベ
ルで組織培養上での増殖の際には『3』を推奨するとなっている。しかしながら、高
レベルのウイルスを含むことが判明しているものを操作する場合は、キャビネット
はクラス3のもの、施設もクラス4のものを要求している。ウイルスの濃縮実験は当
然クラス4になっている。また、サルでもBウイルス感染症を臨床的に疑わす口腔内
の水疱や潰瘍を有する場合は隔離し、最高度の注意を払って対処し、かつすみやか
に安楽死処分することが望まれている。米国の場合、ハード面のみならず実験者の
ソフト面をも加味して取扱い病原体を分類するのとは異なり、わが国の指針は一律
に封じ込める方式であり、動物実験の場合、矛盾を生じる場面もある。
2.Bウイルスの性状と感染経路
ヒトの単純疱疹や水疱瘡/帯状疱疹と同属のα型に属しており、Cercopithecine
herpesvirus 1、あるいはHerpesvirus simiaeともよばれるこのウイルスは通常サル
間では接触感染(咬傷、掻き傷、交尾等)や母親から新生仔への産道垂直感染によ
って生態学的には生き延びている。一般的にマカカ属サルでは、ヒトの口唇ヘルペ
スや帯状疱疹ヘルペス同様にほとんど一生涯身体中の神経節等に潜伏感染を起こす
のみで、ひどいストレスや免疫抑制実験等をしない限り発症しない。もし発症した
場合は主として口腔内潰瘍を示す。ウイルスは口腔内粘膜、唾液、結膜あるいは繁
殖シーズン中の陰部粘膜に抗体陽性サルの2〜3%において排出されるとされるが、
その排出も一定ではなく、ストレス、繁殖シーズン等に左右される。また、一過的
なウイルス血症も少数ながら存在するとも云われている。一方、非マカカ属霊長類
(例えば、新世界ザル、チンパンジー、ゴリラ等)では致死的になると報告されて
いる。同様に、ヒトが咬傷、掻き傷等によりBウイルスに暴露・感染した場合、発症
例ではほとんど致死的になる。過去の米国の累積データによると 23/36(64%)で
あるが、現在では帯状疱疹にみられるようにヘルペスウイルス感染症の治療(アシ
クロビル、ガンシクロビルの投与)がかなり功を奏するようになってきており、Bウ
イルスの場合も暴露部位の早期洗浄、治療薬の投与により、昨今死亡報告例はない
。
 3.Bウイルス感染の診断
わが国で出来るBウイルス感染の非臨床的診断としては抗体検査法がある。サル血清
中の抗Bウイルス抗体を酵素抗体法で検査するもので、筑波の予防衛生協会(社団法
人)が行っている。抗体陽性結果が出た場合、他のシミアンヘルペスウイルス抗体
の交叉反応を拾う可能性も否定できないので別の方法による確定診断法が必要にな
る。現状、一つは単クローン抗体使用による競合試験であり、もう一つはイミュノ
ブロット法である。その他、ウイルス分離やPCR/RFLP法による遺伝子鑑別診断等が
ある。今後、わが国でも前述したようなウイルス取扱上の制限があるとはいえ、組
換え抗原やPCR法等の開発により、より確実・安全な診断体制の確立が要望されてい
る。
4.国立大学動物実験施設飼育中サルにおける抗体保有状況
わが国の施設飼育中のサルにおけるBウイルス抗体を調査した結果及び注意事項等は
、平成9年5月23日付けで文部省学術国際局学術情報課長より傘下の各機関に通知さ
れた。このデータによると、輸入ザル(アカゲザル、カニクイザル)は勿論のこと
、わが国固有のサルであるニホンザルにおいてさえ、施設飼育中のものの3割強で抗
体陽性を認めている。困難を伴うものの、今後、特に医学系で汎用されるニホンザ
ルでの伝播経路、ウイルス排出頻度、排出場所の特定等感染の実態を研究する 必要
がある。
5.対応策 
日常的にサルを取り扱う際の注意策は、1995年にCDCが中心となって作成した
Guidelines for the Prevention and Treatment of B-Virus Infection in
Exposed Persons (Clin. Infect. Dis., 20: 421-439, 1995)と、それの全訳(オ
ベリスク、増刊号、1997年10月1日発行)が最近出されたので参考にすると良い。現
実的な対応としては、先ず検疫の一環として抗体検査を実施することである。陽性
の場合はウイルスを排出している可能性を考慮して取扱うより現実的には仕方がな
いが、事故に遭遇する可能性も考慮して、救急キットの準備や各機関あるいは指定
医等のネットワーク構築が是非とも必要である。




3 細菌性赤痢及びその他の細菌感染症について高阪  精夫
(社団法人 予防衛生協会)



現在、我が国で、医学、生物学的研究のための実験動物として使用されているサル
類の大部分は輸入されたものである。これらの輸入サル類には各種の病原体が自然
感染している可能性が大きい。そして、これらの感染症の中には、人獣共通感染症
が多くある。今回、サル類の人獣共通感染症のうち、主要な細菌感染症について概
説する。
1.細菌性赤痢 
細菌性赤痢はヒトとサル類のみにみられる疾病で、重要な人獣共通感染症のひとつ
である。事実、1974年には我が国の各地で、また、1979年には北海道で、さらに、
1993年には神奈川県と埼玉県でペット用の輸入サル類に起因すると思われるヒトで
の赤痢菌感染例が発生した。サル類の感染例の報告はほとんどが類人猿や旧世界ザ
ルに関するもので、新世界ザルのものは少ない。原猿ではまれである。サル類への
感染は、自然生息地域ではみられず、ヒトに捕らえられてから初めて感染すること
が確かめられている。輸入サル類は本菌に感染している可能性が高く、本菌陽性ザ
ルの多くは無症状保菌ザルである。また、サル類から分離される血清型は多様であ
る。治療には抗生物質が用いられる。
清水ら(1996)の調査によると、1995年に中国から我が国に輸入されたカニクイザ
ルの本菌検出率は21.7%(13 頭/ 60頭)であった。分離された赤痢菌の血清型は、
Shigella dysenteriae 2、S. flexneri 2a 、S. flexneri Y、未公認の赤痢菌血清
型1621-54の4種であった。
2. サルモネラ症
サルモネラに感染したサル類のほとんどは無症状保菌状態にとどまり、菌は自然に
消失するものが多い。しかし、1年間以上も排菌を続ける保菌ザルもみられる。分離
される血清型は多様である。そのうち、Salmonella Paratyphi A、S. Paratyphi
B、S. Paratyphi C、S. Typhimurium、S. Enteritidis、S. Stanley、S. Anatum、
S. Newport などは、サル類に散発的または集団的に下痢症を起こすことがある。し
かし、ヒトの腸チフスの原因菌であるS. Typhi がサル類から分離されたという報告
はない。治療には抗生物質などが用いられるが、菌を消失させることは困難な場合
が多い。サル類からヒトへのサルモネラの感染例についての報告は外国にはあるが
、我が国にはない。 
清水ら(1996)の調査によると、1995年に中国から我が国に輸入されたカニクイザ
ルの本菌検出率は16.7%(10 頭/ 60頭)であった。分離されたサルモネラはすべて
O9群の菌であった。
3.カンピロバクター症 
Campylobacter 属は多数の菌種に分けられているが、現在までに、サル類から分離
された菌種はCampylobacter jejuni、C. coli、C. lari、C. fetus subsp. fetus
などである。そのうちで、C. jejuni、C. coli、C. fetus subsp. fetus はヒトに
対して病原性がある。また、C. jejuniはヒトと同様にサル類の下痢症の原因菌のひ
とつであるが、他の菌種のサル類に対する病原性は明らかでない。多くのサル種が
C. jejuni に感染しているが、無症状保菌ザルである場合が多い。英国ではサル類
に起因すると思われる動物飼育技術者のC. jejuni/coli感染症例が報告されている
。治療には抗生物質が用いられる。 
我々の調査によると、1992年から1994年までに、我が国に輸入されたサル類の本菌
検出率は、カニクイザルで38.3%(36頭/ 94頭)、アカゲザルで28%(14/ 50)、
べニガオザルで87.5%(6/ 7)、コモンリスザルで0% (0/ 26)であった。分離さ
れた菌種は4種で、C. jejuni が一番多く分離された。 
4.結核症 
サル類に結核症を起こす菌種は人型結核菌と牛型結核菌である。すべてのサル種は
人型結核菌に感受性を有するが、その程度は旧世界ザルが最も高く、以下、類人猿
、新世界ザルの順である。旧世界ザルではマカカ属サルが、またマカカ属サルでは
アカゲザルの感受性が高い。牛型結核菌に対するサル類の感受性は人型結核菌に対
する感受性より低い。また、新世界ザルでの感染例についての報告は見当らない。
サル類の結核症はほとんどが進行性で、かつ致死的である。サル類への感染は、自
然生息地域ではみられず、ヒトに捕らえられてから初めて感染するといわれている
。感染ザルを摘発し、淘汰することが最善の予防策である。
米国のCDC(疾病対策センター)の調査によると、1990年から1993年までに、米国に
輸入されたサル類の結核菌感染率は0.4%(90頭/ 22,913頭)であった(CDC,1993)
。
5. 類鼻且 
ヒトを含む哺乳動物にみられる類鼻且菌による感染症で、敗血症や多発性膿瘍がみ
られ、死亡率の高い疾病である。地域的には、東南アジアと北オーストラリアに局
在している感染症である。感染は経皮感染、経気道感染、経口感染と考えられてい
る。
サル類における類鼻且についてはマカカ属サル、オランウータン、チンパンジーで
の報告例がある。例えば、Danceら(1992)は、1990年にフィリピンから英国に輸入
された野生カニクイザルにおける類鼻且の集団発生を報告している。したがって、
東南アジアからの輸入サル類については本菌の感染に充分注意を払う必要がある。
感染ザルを摘発し、淘汰することが最善の予防策である。






4 原虫・寄生虫感染症について
竹内 勤
(慶應義塾大学医学部熱帯医学・寄生虫学) 



サル類には多種多様な原虫・寄生虫が感染しているが、人に感染し得る原虫・寄生
虫としては下記のものが報告されている。
1)赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica; Entamoeba dispar)
2)マラリア原虫(Plasmodium knowlesi; P. simium; P.cynomolgi)
3)Trypanosoma cruzi
4)大腸バランチジウム(Balantidium coli)
5)ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)
6)糞線虫類(Strongyloides stercoralis: S. fulleborni)
7)鞭虫(Trichuris trichiura)
アフリカトパノソーマなど他種の原虫でサルから見いだされるものはあるが、人体
感染が確実に起こっているかどうかは疑わしい。
以上の原虫・寄生虫の中で最も人体感染との関わりが濃厚と思われたのは、赤痢ア
メーバであろう。赤痢アメーバ感染源としてのサルの存在は以前より指摘されてい
た。事実1970〜80年代にかけて行なわれたわが国での糞便検査によるサルの感染状
況の調査では、赤痢アメーバと同定された原虫は数十パーセントの感染率を示して
いる。例えば小山ら(1975)はマレーシア産、インドネシア産のカニクイザルの
48.1%に、またエチオピア産のミドリサルの33.3%に赤痢アメーバを検出したと報告
した。あわせてEntamoeba coliなど、非病原性の腸管寄生性アメーバも高率に検出
された。一方赤痢アメーバの病原株、非病原株に関する最近の研究は、これら病原
株と非病原株が光学顕微鏡レベルでは全く鑑別できないものの、ヘキソキナーゼや
ホスホグルコムターゼなどのアイソエンザイムパターンが異なるなど生化学的に差
異があることを明らかにし、引き続いて行なわれた研究で遺伝的、臨床的にみても
両者は異なった種と考えるのが適当と云う結論になった。この事は19977年4月の
Weekly Epidemiology Recordに公表され、以後病原株をEntamoeba histolytica、非
病原株をEntamoeba disparと呼び、独立した種として扱うこととなった。以上のよ
うな状況に基づいて演者の教室の小林は東海大学の橘と共同で筑波霊長類センター
などのチンパンジー、カニクイザル100頭以上を調査したが、対象となったサルから
分離された赤痢アメーバの全ては非病原性であるE. disparである事を確認した。今
後輸入サル類のアメーバ感染を考える時はE. histolytica、E. disparの何れが感染
しているのかを確定する必要がある。
サルマラリア原虫の場合は事情が異なり、上記のマラリア原虫は確かに人に感染す
るが、これまでの症例はごく少数で、何れも野生のサルが居住している森林などで
感染している。国内での感染源となることの可能性は少ないが、サルの本来の棲息
地では一応注意を払うべきであろう。これまでの感染例では人の熱帯型マラリア(
falciparum malaria)のように脳マラリアなどの合併症を起こしたり、重症化した
例はない。熱型ではP. knowlesiは四日熱のパターンを、P. simium とP.
cynomolgiは三日の発熱パターンを採ると報告されている。
線虫類に関してはS. fulleborni がサルから人に感染した事がよく知られている。
S. stercoralisも実験的にチンパンジーから人に感染し得たと云う報告もある。
原虫・寄生虫のサル類から人への感染はわが国では実態が十分把握されたとは思え
ない。幸いなことにこれまで致命的となった確実な症例の報告は見ないが、今後サ
ル類の輸入の動向にあわせて注意を喚起する必要はあろう。 







5 行政上の対応について
吉川  泰弘
(東京大学大学院農学生命科学研究科)

厚生省が百年ぶりに伝染病予防法を見直し、人獣共通感染症もその中に加え検討さ
れた。当該ワーキンググループの人獣共通感染症の重要度分類でも、サル類は極め
て重要、非常に重要な感染症の病原体を保有しうる動物として、第1類に分類された
。輸入動物の中でのサル類の特徴は、
1)毎年4,000〜5,000頭が輸入され,輸入動物種のなかで大規模である。
2)実験動物のなかではサル類のみが野生動物レベルの品質である。
3)ヒトに近縁であるためヒトに感染する危険性のある感染症に汚染されている率が
高い。
4)「ヒトに対する健康被害の防止について」等の通知が厚生省より出されており,
既に自主  検疫が行われている。
といった点である。この点を考慮し、今後の行政対応を念頭にサル類の輸入・検疫
について考えてみた。
1.サル類の輸入と原産国の状況
平成4年までのサル類の輸入数は年間5,000頭以上であったが、平成5年以後4年間は
4,000頭前後である。平成8年の輸入頭数は4,211頭であり、90%が成田空港扱いとな
っている。アジア産のサルが全頭の60%で、中国が1,625頭とその大半を占めている
。平成6年まではインドネシアが第1位であったが、平成7、8年は中国産が第1位を占
めている。南米産の新世界ザルは34%で、ガイアナ産が1,022頭を占める。南米産の
サルは平成3、4年は2,000頭弱と多く輸入されていたが、その後著しく減少し、平成
8年に1,435頭に増えている。アフリカ産のサルは1,33頭と少ないが、平成6、7年に
はそれぞれ645、411頭と多かった。
2.サル類の安全輸送
感染症予防対策という点から分類した。下記の条件を満たせば、それぞれのレベル
のサル類を安全に輸送できる。レベル1、繁殖育成サル類:原産国の政府、公的機関
により認可された施設内で繁殖育成され一定期間の検疫がおこなわれ、健康証明書
が添付され、梱包し発送されるサル類。島繁殖ザルは除く。レベル2、再輸出サル類
:野生、育成を問わず、政府、公的機関により認可された施設内で一定期間検疫さ
れ、再輸出用検疫証明書が添付され、当該施設から梱包し発送されるサル類。レベ
ル3、それ以外のサル類:輸出国で30日以上の個別飼育観察を実施し、この間下痢、
発疹、発咳を観察しなかった個体で、獣医師による健康証明書が添付されるサル類
。上記のサル類であっても、輸出国でウイルス性出血熱などの急性感染症が流行し
ている場合は、流行が終焉するまでの間、当該国からの輸送は停止する。
3.空港における通関時の対応
空港での感染症予防、緊急時対応また輸入サル類取り扱い実績を考慮し、輸入港は
成田1カ所にする。平時対応は検疫所職員が、
1)上記サル類輸送に関する書類の回収
2)健康状態の目視検査を
行う。
緊急時対応:成田にサル類の隔離施設を設ける。空港到着時サル類に急性の危険な
感染症が疑われる場合は、速やかに全頭を隔離施設に回収し、当該サル類の国内移
動は行わない。
1)異常個体から材料を採取する。病死個体は焼却処分とする。
2)感染症研、医療センターなどと共同し、感染症の原因を明らかにする。隔離中は
給餌・観察のみとし、治療は行わない。動物との緊密な接触は避ける。
4.検疫
輸入サル類は、全て31日間検疫を行う。検疫中に危険な感染症の流行が疑われる場
合は、検疫期間を1ヶ月延長すると同時に、適切な対応を取る.検疫は民間の動物検
疫施設、受託試験機関等で行う。検疫結果は全て厚生省の担当部局に報告させる。
検疫所職員は検疫施設の安全管理に関する査察を行う。
5.検査
ヒトへの感染症予防の点から必要な検査は以下のものであると考えられる。
1)マールブルグ、エボラ出血熱ウイルスおよびサルフィロウイルスを含む抗体検査
。検疫期間中に異常が無く、抗体価の上昇が無ければ検疫終了。
2)赤痢、アメーバ赤痢:糞便検査を行い陽性個体は投薬治療する。
3)結核:ツベルクリン反応陽性個体は殺処分する。
4)Bウイルス:抗体検査し、陽性個体は取り扱いに注意する。
上記検査の結果は厚生省担当部局に提出させる。また検査機関の検疫所職員による
査察が必要。
6.情報の収集と提供
厚生省の担当部局には以下の情報が収集される。
1)原産国の施設の飼育環境等に関する視察結果
2)航空輸送時に関連した証明書
3)検疫結果と検疫施設の安全管理査察データ
4)抗体検査の結果
この他に新しい伝染病予防法に書かれているような人獣共通感染症のハイリスクの
ヒトの検査、健康監視、特定病院からの情報が得られる。これらの情報を収集・提
供する。 



一般講演(K. 実験動物医学会)

4月6日(月)第4会場
演題番号K−1〜10(15:10〜16:50)


 15:10〜15:20   座長:林  正信(酪農大)
K−1   PCR-select cDNA  サブトラクション法を用いたTdhoマウス発生異常の解析
○徐  光源,荒井利夫,昆  泰寛,渡辺智正        (北大・獣医・実験動物)

 15:20〜15:30
K−2   マウスにおけるインフルエンザウイルス抑制Mx1遺伝子型
○陳  喜慶,落合謙爾1,昆  泰寛,渡辺智正       (北大・獣医・実験動物,1同
病理)
 
15:30〜15:40
 K−3   Nramp1  コンジェニックとTNF-aノックアウトマウスを組み合わせたマク
ロファージの殺菌能とNO産生能の解析
高松大輔,野間博子,昆  泰寛,関川賢二1,○渡辺智正
        (北大・獣医・実験動物,1家衛試) 
 
 15:40〜15:50   座長:手塚英夫(山梨医大)
K−4   DDD×DH−Dhl+F1Dhl+雄マウスにおける成長障害・直腸膀胱瘻発症の遺伝
学的解析
○須藤淳一,今村憲吉,山中晴道,関川賢二        (家衛試)

15:50〜16:00
K−5   TNFa遺伝子欠損マウスを用いたエンドトキシン病態の解析
○山中晴道,池田明美1,今村憲吉,高田益宏,関川賢二     (家衛試,1STAFF研)

 16:00〜16:10
K−6   慢性腎不全:ヒトからマウス,マウスからネコ
○黒澤  努,澤島  効,水野信哉,堀川洋子,岡本宗裕      (大阪大・医・動物実験)

16:10〜16:20     座長:首藤文栄(岩手大)
K−7   LECラットにおける放射線感受性機序の解析
○林  正信,市川友香子,荒井惣一郎,遠藤大二1,奥井登代2
        (酪農大・獣医・放射線,1北大・獣医・放射線,2道衛研)

16:20〜16:30
K−8   Dah1食塩感受性高血圧ラットの腎糸球体の血管病変:血管鋳型の走査型電
子顕微鏡に
    よる観察
○二宮博義,猪股智夫,荻原喜久美1       (麻布大・実験動物,1環境病理)

16:30〜16:40    座長:黒澤  努(大阪大・医)
K−9   ヘアレス犬の皮膚色素斑除去部位における長波長紫外線UVA照射の影響
○木村  透,井口聖一1,土井邦雄2
        (農産工・中研,1水戸赤十字・形成外科,2東大・農)
 
16:40〜16:50
K−10  アフリカツメガエルの空気中匂い分子受容器の発生誘導分子の検索
○鈴木恵子,森松正美,谷口和之,首藤文榮        (岩手大・農)

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