【マウスの断面解剖アトラス はじめに】

 マウスは古くから実験動物として使われ、20世紀初頭には研究目的に合わせて各種の近交系、ミュータント系、クローズドコロニーやそれらの交雑系が作られるまでに至っている。さらに近年、相同遺伝子組み換え技術を用いたヒト遺伝子の基礎的研究や解析、各種病気の解明・治療等の研究に遺伝子導入マウスや遺伝子破壊マウスが全世界で新たに産生されるようになり、今や近代医学をはじめとする生命科学研究に欠かせない動物となっている。遺伝子導入マウスや遺伝子破壊マウスは遺伝子の作用機構の解析上、個体の形態異常を正確に把握することは重要なステップと位置づけられ、そのため形態異常を的確に観察する能力や発見した異常が系統間の自然発生異常と異なると判断するための解剖学的な知識の要求が高まっている。一方、CT(computed axial tomography)、超音波エコー、MRI(magnetic resonance imaging)、SPECT(single photon computed tomography)やPET(positron emission tomography)等の画像診断装置の発達により、生体内の情報が無侵襲に手に入るようになり、小型の実験動物を用いた研究にも利用されるようになってきた。これらの画像解析には断面的・立体的な解剖学的知識が必要とされる関係から生体の情報が理解しやすいかたちの解剖学の参考書が要望されるようになってきている。
 著者らは平成5年に、実験動物の断面解剖アトラス・ウサギ編(チクサン出版社・英語,ラテン語, 日本語併記)を、平成9年に実験動物の断面解剖アトラス・ラット編(チクサン出版社・英語,日本語併記)を出版した。今回これらの経験を生かし、上記要望に微力ながら応えることができれば幸いと考え、クローズドコロニー系(ICRやddY)マウスの解剖アトラスを出版することを決意した。本書はマウスのマクロ解剖写真と、水平断、矢状断および横断の断面写真を体系的に配したカラーアトラス集で、以下の点を留意して作成した。
1)無固定(断面画像は安楽死・脱毛処理後に−40℃近くで凍結した動物を、ダイヤモンドディスクソーを使用して切断、生理食塩液にて融解後に写真撮影)で生体に近い状態の解剖カラーアトラスを作成し、生体の断面情報を研究する研究者の参考に成り得ることを計った。
2)図は血管造影図(2ページ)を除き、全てカラー写真で構成(総図譜150ページ)し、しかも紙面の許す範囲で大型に配した。
3)断面解剖と平行して切断面のX線写真やマクロ写真を配して、体の中での位置的状態が立体的に理解しやすいように工夫した。
4)解剖名は日本語と英語を同時に表記し、読者が日本語と同時に英語の解剖名も把握できるように企画した。
本書の作成にあたり下記の著書を参考とした。
1) Cook, M.J. (1965).The Anatomy of the Laboratory Mouse. Academic Press, London.
2) Foster, H.L., J.D. Small and J.G. Fox(ed). (1983). The Mouse in Biomedical Research Vol.3 Chapter 7.Anatomy. Academic Press. London.
3) Green, E. L. (ed). (1966). Biology of the Laboratory Mouse. McGraw-Hill, New York. Chapter 13. Anatomy, Katharine P.H. et al.
4) Gude, W.D., G.E. Cosgrove and G.P. Hiesch. (1982). Histological Atlas of the Laboratory Mouse. Plenum Press. New York.
5) Kaufman, M.H. (1992). The Atlas of Mouse Development. Academic Press, London.
6) Popesko, P., V. Rajtova, and J. Horak. (1992). A Color Atlas of Anatomy of Small Laboratory Animals 2. Mouse. Wolfe Publishing Ltd., London.
7) Sidman, R.L., J.B. Angevine Jr. and E.T.Pierce. (1971). Atlas of the Mouse Brain and Spinal Cord. Harvard University Press, Cambridge.
8) Theiler, K. (1989). The House Mouse: Atlas of Embryonic Development. Springer-Verlag, New York.
 なお不適当な写真、用語等について読者諸賢のご批判を仰ぎ、今後の参考にさせて頂ければ幸いである。
謝辞
 本書の出版にあたり以下の方々に多大なご指導ご援助を頂いた東京慈恵会医科大学医科学研究所実験動物施設 施設長 大川 清 教授、同施設 成相孝一 助手ならびに施設職員諸氏に感謝を申し上げる。また動物は我が国を代表する下記の実験動物生産・販売業者から分与または購入したものを自家繁殖して用いたが、その際、絶大なご援助・ご協力さらに資料の提供に応じて頂いた、株式会社 日本医科学動物資材研究所、日本クレア株式会社、日本チャールス・リバー 株式会社、日本エス エル シー株式会社および三共ラボ 株式会社の担当諸氏に心より感謝を申し上げると共に我が国の実験動物生産が今後とも益々発展することをお祈りする。

2001年 4月 著者ら記