| 齋 藤 昭 男 |
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ネコには生まれながらにして特有な習性があって、つねに野外でも屋内でも、マーキングのための尿スプレー、爪とぎ、グルーミング、なわばり意識、徘徊行動などイヌとはちがった猫科動物に共通した行動が見られます。 その不思議な習性と5つの感覚(聴覚、視覚、嗅覚、触覚、味覚)を駆使した「しぐさ」を見ていると、ネコ好きな人たちは、それを探究してみたいという好奇心にかきたてられるものです。 私の動物病院には毎日、陽気で従順さにほれこんだイヌ派の人、自己主張が強く個性的で美しい体形や、その行動に魅力を感じてとりこになったネコ派の人、ときにはハムスターからウサギなどの小動物から、珍しいカメやヘビなどを飼っているエキゾチック派の人などが、動物たちの定期的な健康診断や恐ろしい伝染病予防ワクチンの接種のためや、病気の診断から内科治療や外科手術などを目的に訪れます。ある時は、引っ越しで置き去られた迷子ネコや交通事故に出あって倒れていたネコを連れてきて「病院で引き取って譲渡先を探してほしい」と懇願される場合もあります。 近年はこうした事例ばかりではなく、ネコ派の人からは「ネコの感覚と行動」に関する問題行動の対策やその対応に関する相談が多く寄せられるようになりました。 そこで私は、専門的な立場から、適切なアドバイスができるように、ネコの行動の基本的な資料を得る目的で、動物病院にネコを連れてきた100人の飼い主さんに、アンケート調査を実施しました。 ネコを飼った動機、魅力、年齢、飼っている場所、飼育頭数、不妊手術の有無、行動に関する疑問やら問題行動について細かくたずねました。 その結果、捨てられていた乳児ネコを衝動的に「かわいそう」と感じて拾いあげて、人工哺乳をしながら飼いはじめた人が意外に多いことがわかりました。 1〜2か月から6か月ぐらいの子ネコの飼い主さんは、行動や鳴き声の「かわいさ」に魅力を感じた小学生や若い女性がほとんどでした。また多くの人は室内飼育をして、不妊手術をして飼うことを希望していました。飼育頭数は1〜2匹を飼育している家庭がほとんどでしたが、なかには30匹以上という多頭飼育をしている愛猫家が100人中5人もいらっしやいました。最高は室内だけで38匹も飼っていた人がいたのは驚きでした。 ネコの行動に関する質問事項の中で、多くの飼い主たちは、ネコの「かわいいしぐさ」や「美しい個性的な動き」などに魅力を感じながらも、いつもその「しぐさ」の1つ1つに「何をしているのか」、「何を意味しているのか」、「何を伝えたいのか」など、疑問を抱いて行動を見つめていた点に興味を感じました。 その具体例をあげると、はじめて飼った人からは、タタミやジュータンなどでの爪とぎ問題でした。爪跡が残されて「爪どきは防げないかしら?」、「家を飛びだしたのはなぜかしら?」ネコ嫌いの人からは「ネコが庭にこなくなる方法を教えてください」、「発情期の鳴き声がうるさいが、静かにする方法はないかしら?」隣家の人からは「ネコが庭を荒らして困ります」、「尿スプレーで異臭がするので外にださないで下さい」、「爪どきで庭の樹木に爪跡を残したので困ります」など、ネコの行動が原因でおきた苦情が多数をしめていました。 中にはネコ好きと嫌いな人との意見がかみ合わないで、トラブルにまで発展してこじれた事例もありました。これらのなかには、ネコの習性や行動を少しでも理解していれば、簡単に解決できる問題もありました。 一番心が痛むことは、駐車場の片隅や、公団の木陰に捨てられた子ネコを人のご都合主義から「飼えないので、処分してほしい」と、持ち込まれたケースです。 このように最近の動物病院には、訪れる人々の目的も多様化して、治療ばかりではなく、ネコの行動からおきた問題を解決するためにアドバイスを求めに参ります。 これらの問題を解決するには、ネコの習性や「しぐさ」から送られてくる、鳴き声や行動による無言のサインを「どんなメッセージなのか?」その情報をキャッチして理解すればよいのです。 ネコを飼う楽しみは、「ネコっかわいがり」をするだけでは得られません。ネコの習性や行動の意味をよく知ってこそ、ネコと幕らす生活の楽しみは倍加され、よく知れば知るほどに興味がわいて、愛着がでます。 今回、この「ネコのサインを見逃すな」は、ネコからあなたに情報を知らせるために送られてきた、不思議な感覚やその行動をわかりやすくするために亀井動物病院長・亀井俊一先生に感覚気管の模式図を、船橋市の彫金作家の直井正子さんに行動イラストを提供していただきました。ネコの行動調査のアンケートには鈴本隆さん、土屋照美さんらのご協力を願いました。 ネコの行動写真は、鈴木隆さん、青井ひとみさん、岡田康一さん、福山智子さん、ネコのパステル画を新谷文子さんから提供してもらいました。また文献資料の整理などにあたった当院のAHTの高田由香さん、山本久仁子さん、鈴木麻希子さんならびに本書に登場したたくさんのネコちやんと飼い主の方々のご協力に厚くお礼申し上げます。 病気のサインの症例写真は、すべて著者が長年にわたり動物病院で、ネコの臨床獣医師として現場で記録として撮影して収集した貴重な写真です。 今回、本書には20枚ほどのかわいいイラストと、120枚ほどの症例写真を随所に入れました。なかには一瞬ドキッとするような実例写真もありますが、一目で見でわかる「ネコの解説書」として挿入したことを、何卒ご理解願いたいと思います。 最後になりましたが、原稿執筆にあたりまして、始終ご指導ご助言、ご校閲を賜りました監修者、麻布大学教授・鈴木立雄先生、ならびに助教授・武藤眞先生、講師・陰山敏昭先生、杏林大学医学部の久保田潤一郎先生、小暮動物病院長・小暮規夫先生、アマネセルの獣医師・高橋英俊先生、花香歯科医院の花香政人先生に深甚なる謝意を表します。 また、本書の出版にあたり、多大な便宜を与えられ、編集にご尽力をいただいた(株)アドスリーの横田節子さん、ならびに社員のみなさまに感謝いたします。 今日、書店のペットコーナーには「ネコの種類や飼い方」、「病気の知識」の実用書ばかりではなく「ネコの行動」、「ネコの心理学」などの本がたくさん本棚に並べられるようになりました。 ぜひ、本書もあなたの書棚の片隅に置いていただき、ご一読願える機会が得られ、あなたの「ネコのサイン」を解読する資料として役立つことが叶うなら私の望外の喜びとするところであります。 |
| 平成13年11月 |
| 著者 |