指定文化財位置図 日本の心と文化財─災害から守り、末来へつなぐ─

「はじめに」─文化遺産と地震対策─
土岐憲三(立命館大学教授、NPO災害から文化財を守る会理事長)

文化財防災にっいて、忘れられてきた視点に基づき、見直そうとする考え方が次第に広く理解されるようになってきた。
それは何か?

第1章 ものに込められた歴史・文化

杉本苑子 文化財に秘められたドラマ
杉本苑子(作家)

文化遺産一こういうものの歴史、それぞれがどのような歳月を経て、現在に到っているかということを知れば、放火するとか、火の用心をおろそかにするなどということはずっと少なくなってくる。
文化遺産を守ることは、外からやってもなかなかだめなことなので、国民一人一人がどんなに大事なものなのかを知る、どのようなおもしろいドラマが秘められているかを知ることによって、底辺から守らなければいけないという考えが植えっけられる。これが大事なことなのではないでしょうか。

神々を守り伝える
冷泉為人、冷泉貴実子

冷泉為人 いま守るべき文化財について
冷泉為人(冷泉家25代当主)

日本を代表する典籍類を代々伝えてきたのは、冷泉の家が典籍類を持っていて、火災のことをいえば、必死になって守ろうとする心がそうさせたのであろうと思います。

御文庫 冷泉貴実子 何とか守られた文化財一冷泉家の苦労─冷泉家の苦労─
冷泉貴実子(冷泉家時雨亭文庫事務局長)

私は文化財が失われるのは、災害、これはもちろんですけど、私たちの文化に対する考え方というものをいつまでも維持していく、これが何よりも重要なことだと思います。

第2章 危機はすぐそこにある

小松左京 生き残ってきた文化財をさらに生き延びさせる
小松左京(作家)

災害については、それぞれの関係者、国や地方自治体だけではなく、市民がどのように守るかということについて、ぜひ頭をひねっていただきたい、はたらかせていただきだい。
京都の場合、文化財が多いという面からもより荷が重いかもしれません。しかし、これは国がやる仕事だと頭から思わないでほしいと思います。

上田正昭 ひとりひとりが文化財を守る心を
上田正昭(京都大学名誉教授)

東本願寺 東本願寺の噴水 大事なのは、日ごろから地域の住民のみなさんが、その文化的価値を知らていてくれなければ、いざというときに守れない。文化財を守るための前提には、文化財を生かすという運動があってはじめて守れるわけです。

尾池和夫 京都大地震は近い
尾池和夫(京都大学総長)

日本近海のプレート 一つの活断層で、千年に一回ぐらい地震が起こってそのたびに1メートルぐらいの落差を生じる。これを繰り返しやっていると、大体百万年で千メートルの上下差ができる。
それが、地表で見えるのが、山と盆地の落差ということになります。われわれはそういうところに暮らしているわけです。いいかえると、活断層とはおつきあいをしてきたのだし、それと共生をはかる、それは当たり前のことであるということになります。

第3章 文化の生きる風景

前登志夫 景色が織り成す文化
前登志夫(歌人)

吉野冬景色 ちょっとした里山ですね。人間の暮らしの細やかな、そこにドラマがあって、そういう里山のたたずまいというんでしょうが、それは青の領域であり、一つの死者の世界ではあるのですが、何か大変力を与えてくれるものかもしれません。
そろいう原郷への回帰幻想、生命の源に立ち返ったような思いを与えてくれるのだろうと思うのですが、文化財というのは本来そういう時間をはらんでいるんじゃないかと思います。

大林宣彦 守り、伝えなければならないもの
大林宣彦(映画作家)

アルテビアッツァ美唄 この時期、私たち人間自身が災害になっていた。
文化とは何であるかというと、人が一生懸命工夫して、努力して、ときには我慢して、そしてご褒美をもらってうれしいものが文化財なのです。
 人間が幸福になるための智慧。ということでいえば、みなさん自身も文化財なのです。そういう心を持っている人間が文化財なんですね。

第4章 文化財を生かす心の作法

山折哲惟 『生命』としての文化財を考える
山折哲惟(宗教哲学家)

室生寺五重塔 厳父のごとき自然、慈母のごとき自然。
そういう自然の二面性と長い間っきあってきた日本列島人は「天然の無常」という感覚を生み出すようになった。(これは、寺田寅彦の「日本人の自然観」である。)
たとえば、正倉院は千二百年の間、危機をしのいで今日まで保存されてきている。
この秘密と、先程の自然観とを重ね合わせると、それは、不安定な自然に対する、その問題を常に念頭におきながら心の備えを積み重ねてきた日本人の知恵、心の問題であった、と見えてくる。
最新の技術を駆使すること、あるいはそれ以上にもう一っの心の耐火施設、心の耐震施設というものを、学び直していくことが必要ではないでしょうか。

編集後記
伊藤一正(国土文化研究所)

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