トンネル発光で観る表面ナノ構造
潮田 資勝 東北大学
「走査型トンネル顕微鏡(STM)は、鋭い針の先から電子を試料にトンネルさせながら表面をなぞることによって、表面の原子像を描きます。この時トンネル電子に刺激されて出る光を分光すると、個々のナノ構造の性質を調べることができます。」
【用語解説】
走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope-STM):
鋭くとがった金属の針(探針)と試料の間に電圧をかけて探針を試料表面に近づけると、探針と試料が実際に接触する少し前に針の先端から真空ギャップ(千万分の1cm位)を通して電子が試料に飛び移る(トンネルする)現象を電子トンネル効果と言う。STMはこの現象を利用して試料表面を探針でなぞって原子による凹凸を計る装置で、1980年頃に発明されて表面現象の研究に革命的な新しい展開を可能にした。トンネル電子によって刺激された試料から光が出ることは1988年頃に発見された。
発光分光:
我々が普通に見ている光には多くの波長の光が異なる強度で混ざっている。光を異なる波長に分けて各波長ごとの強度を測ることを「分光する」と言う。分光計測にはプリズムや回折格子(沢山の線を引いた鏡のような物)を使う。分光すると波長ごとの光の強さのグラフが得られる。このグラフのことを「スペルトル」と言う。物が発光していてこ発光を分光したときに得られるグラフが「発光スペクトル」である。
ナノ構造:
物質を一辺がナノメートル(千万分の1cm)程度のサイズまで極限的な小ささにすると、普通のサイズの同じ物質とは違った性質が現れてくる。このように大きな物質(バルク構造)とは異なる物性を持った極微細構造が「ナノ構造」である。半導体などの物質に加工を加えてナノ構造を作り、それにサイズの小ささに起因する特異な新しい物性を持たせてこれをデバイスに応用しようという技術分野を「ナノテクノロジー」と言い、現在国策としてこの分野の研究を推進している。
電子レベル:
電子は陽子、中性子と結合して原子を構成している。原子中で運動している電子のエネルギーは連続的な値を取らず、いくつかの特定のエネルギーレベルしか存在しない。このことを「電子エネルギーが量子化されている」と言う。電子の持つことができる特定のエネルギーのことを「電子レベル」と言い、物質の中では電子レベルは各物質に特有のエネルギーを持って存在している。電子がこのような特定のレベルのエネルギーを持っているとき、電子がその「電子レベル」にあると言う。
量子閉じこめ効果:
ナノ構造のように非常に小さなサイズに物質を切り刻む(あるいは最初から小さな構造を作る)と、その構造中の電子レベルが同じ物質のバルク(大きな普通に我々が見ているサイズの物)とは違ったエネルギーに変わる。このような電子レベルの変化は電子を極限的に小さなスペースに「閉じこめた」ことに起因する現象なので、これを「量子閉じこめ効果」と言う。あるいは「量子サイズ効果」と言うこともある。すなわちこれは物質のサイズを小さくしたために起きる現象であり、このような現象はナノサイズの物質で観測される。
第17回「大学と科学」公開シンポジウム