実験動物の技術と応用 実践編
 
(社)日本実験動物協会 編
 
はじめに
 
 21世紀は「生命科学(ライフサイエンス)の世紀」といわれている。これは20世紀における楽観的な幻想、すなわち自然の利用と改造を目指し、生産性の向上と技術革新が人類の平和と進歩につながるという、幻想の終焉に基づく反省によるものである。今世紀、我々は生物としてのヒトという原点を取り戻す必要がある。その意味で実験動物科学は生命科学のキーポイントである。生命科学に対し、単に実験動物を提供するだけではなく、高品質の研究資源と精度の高い生物情報を供給する基本的役割を担う必要がある。
生命科学を実践するためには、実験動物の開発・生産を担う人、動物実験に携わる研究者および実験技術者が必要である。それぞれの人にとって求められる資質・能力は必ずしも同じものではないが、いずれの人たちにとっても必要なものは基本的な技術力であり、生物学的センスである。生物学的センスは生命という複雑系を頭だけでなく、体で理解することにより身につくものである。すなわち、基本的技術および知識を身につけ、生産現場および実験現場でよく観察し、考えることにより磨かれるものである。
このような観点に立って、有用な実験動物技術者の人材育成を目的に、これまで本協会では教育・認定の一環として一級技術師を目指す人たちを対象とした「実験動物の基礎と技術 T総論」と「実験動物の基礎と技術 U各論」を用意してきた。今回の教科書改訂にあたり、全面的に内容を見直し、国際水準の知識と技術を盛り込み1冊にまとめた。したがって、本書は単に実験動物一級試験のテキストという目的だけでなく、動物飼育施設あるいは実験施設のスーパーバイザーとして活躍できる技術師を育成するとともに、動物実験を行う医学、生命科学領域の大学院生および大学、研究所などで動物実験や実験動物の管理に携わる研究者の実践的なテキストとなるようデザインした。
動物実験を巡る環境は生命倫理感の変遷や急速な技術の進歩、社会的価値観の変動、人々の科学に対する信頼感のゆらぎなど、決して安定したものではない。本書は、こうした危機感にたって、できるだけ時代に合い、長期のニーズに答えられるように心がけた。明日の生命科学を担う人々の役に立てば幸いである。
 最後に、本書の作成にあたり、企画から編集まですべてに労を惜しまず、努力された鍵山直子編集委員長、大和田一雄教育・認定専門委員会委員長、各委員、およびご執筆をいただいた各執筆者の方々に深く感謝します。また出版にご協力を下さった株式会社アドスリーの皆様方に謝意を表します。
 
平成16年3月
 
社団法人日本実験動物協会副会長
教育認定担当理事
吉川 泰弘


株式会社アドスリー