動物学者のみた
自然は警告する
─これからの私たちの生活─
 
長澤 弘
 
おわりに
 
  「茨城県東海村のJCOなる会社の悲惨な事故は、日本人の大きな特質であった几帳面さを完全に失った杜撰の結果である。日本人は大きく堕落した。戦争も内乱も飢餓もないのにこれほど急激に頽廃した国民は世界に類を見ない。人心はとげとげしく、殺伐で、若者は考えることと我慢を知らず、すぐ無謀に走る。昔なら当たり前のことが最近は美談として新聞記事になる有様である」100)。
  「川が生意気だといって橋をかける。山が気に食わんといってトンネルを掘る。交通が面倒だといって鉄道を敷く。それで永久満足ができるものじゃない。さればといって人間だものどこまで積極的に我意を通すことができるものか。西洋の文明は積極的、進取的かも知れないが、つまり不満足で一生を暮らす人の作った文明さ。日本の文明は自分以外の状態を変化させて満足を求めるものじゃない。西洋と大いに違うところは、根本的に周囲の境遇は動かすべからざるものという一大仮定のもとに発達しているのだ。……山があって隣国へ行けなければ、山をくずすという考えを起こすかわりに隣国へは行かんで困らないという工夫をする。山を越さなくても満足だという心持ちを養成するのだ。……いくら自分がえらくても世の中はとうてい意のごとくなるものではない。落日をめぐらすことも、加茂川を逆に流すこともできない。ただできるものは自分の心だけである」101)。
  「20代そこそこの女性たちが、2時間も3時間も離れた郊外の田舎から早朝2時頃自転車の左右に百キロ近い野菜をつんできてハノイの路上市場に5時には客の来るのを待っている。……私はこの場を見ただけですでに敗者の気持ちだった。確かに私は流行の衣服、おいしい食事、暖かい部屋と、満たされているのだが、何か空虚であった。……このように郊外からハノイに出向いてくる一人の女性に、あなたにとって“幸福”とは、と聞いてみた。一言、“家族が仲よく暮らすこと”、という答えが返ってきた。……かつての日本にもこんな光景があったのだろう。いつ、どこでどうレールの行先が違ってしまったのだろう」102)。
  「時代の最先端とドンジリの両方が社会に堂々と混在するアメリカ。最新情報、最新技術を取り入れなければ時代に遅れると焦る日本」103)。
  「以前はただ、鬱蒼と灌木の茂っていた土地に、いったい何を作るつもりだろう。いやだなあと眉を顰めて覗いてみれば、スーパーマーケット!? ほほう、こりゃ便利になりそうだと、一瞬ニンマリし、ううう、と唸る。この極めて自己中心的な御都合主義が、日本を滅ぼす一因かもしれない」104)。


株式会社アドスリー