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[電子書籍]安楽死に関するガイドライン

[電子書籍]安楽死に関するガイドライン

商品コード: ade0003

米国獣医学会・著、鈴木 真・訳、黒澤 努・訳、監修

発行日: 2011年5月18日
判型: A5判

書籍コード: ----
定価:550円 (本体価格:500円)

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安楽死に関するガイドライン(旧称、米国獣医学会:安楽死に関する研究会報告)
原著: AVMA Guidelines on Euthanasia

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監修にあたって

安楽死に関する考え方の統一は容易ではない。これは一般市民にとって安楽死は日常生活とは無縁の存在であり、話題となることが少なく、普段は全く意識しない問題だからかもしれない。特に都会に居住する多くの市民にとっては人の安楽死について意識しないだけでなく、動物の安楽死についても多くは意識をせずに生活をしている。したがって、安楽死に関する文献も自ずと少ない。しかし、近年になり2つの理由で安楽死に関する関心は高まってきた。

そのひとつは人の尊厳死の問題である。医療の発展にともなって、長寿高齢化社会が実現はしたものの、ではその高齢者、とりわけ疾病に陥った方が皆幸せかと考えたときに人の安楽死についての議論がわき起こってきている。とりわけ欧米先進国の中ではすでに人の安楽死が法的に容認されているという情報が容易に入手でき、現実の問題として捉える場合も多くなったからであろう。

もうひとつは伴侶動物、家庭動物とされるペットの問題である。かねてより無責任な動物飼育者により放置される動物についての議論は多かったが、それらの動物を積極的に救わなければならないとする動物愛護団体の活動の活性化により、動物の安楽死の問題が議論されてきた。我が国の動物愛護法では地方自治体はこうした動物を処分しなければならないと規定しているが、その法律自体に対する議論も増している。善意によりこうした動物を保護する施設を運営する団体も、建前は動物の安楽死に反対の立場をとるが実際的には収容能力には限りがあり、現実問題として動物の安楽死を容認せざるを得ないこととなる。

さらに2010年になって家畜防疫上の問題から社会の耳目を集めながらも家畜伝染病予防法の規定により多数の動物が処分され、その具体的な映像が報道され、さらにその処分は獣医師による安楽死処分であると報道されたことから、動物の安楽死問題は一般の市民にも現実の生活に関係した問題と捉えられるようになった。

しかし、動物の安楽死は普段意識せずとも日常生活と密着して居る面もある。それは畜産動物の処分に関する方法である。我々は日常生活で多くの畜産品、食肉、卵、牛乳、バター、チーズおよび革製品などを利用しているが、皮革や食肉は動物を処分しなければ流通もしないし、利用もできない。また卵や牛乳の生産であっても、生産効率が落ちると、経済的な観点から処分されるのである。この際にも多くの人々はできるだけ苦痛の少ない方法で動物を処分することを望んでいるものと推察する。ただし、いくら苦痛の少ない安楽死法だとしても、食の安全に抵触する方法や、食品として容認できないほど高価な方法を期待しているのではない。

我が国は古くから米を主食としていて、農業における畜産の位置はそれほど重要なものではなかった。明治以降の生活の欧米化により食文化も欧米のそれと同じようになってきたが、それを支える畜産の文化が広く国民に広がっていったわけではない。したがって畜産における動物処分の問題が広く語られることは少なかった。

第3の家畜ともいわれる実験動物の安楽死問題はこうした我が国の歴史的背景もあり、議論されることは少なかった。しかし、バイオメディカルサイエンスの進展とともにこの問題を避ける事はできず、動物愛護法の制定時に実験動物の処分についてもできるだけ苦痛の少ない方法で行うことなどが規定された。このときにも多くは欧米の法規、指針などを参考にしたとされた。

実験動物の安楽死に関しては、まずその倫理的な観点からの議論は多い。その議論は人の安楽死、および伴侶動物の安楽死など文化的、歴史的、さらには情緒的なものを土台とすることが我が国では主となっている。しかし、実験動物を用いて行われる活動、すなわち動物実験は科学のために行われ、研究手段の一つであることから、国際的な整合性を持つ必要がある。畜産においてでさえ、各国の食文化あるいは宗教観を背景に特殊な動物の処分方法が存在するが、実験動物の処分方法はそれらとは別の観点から考えられなければならない。すなわち科学実験の再現性の保証の担保である。科学が真実の探求のためになされるのであれば、ある事実を証明した方法、すなわち実験は誰がどこで行っても同じ結果を得ることができなければならない。ある特定の国や宗教観を持ったところではAという結果がでたが、別の国や歴史、文化の違うところで行った実験の結果はBであったとなるのは科学的な実験とはいえない。そこで科学実験方法というのは国や、文化、歴史などとは関係なく、世界的に全く同じように行われる必要がある。

実験動物の処分はこうした科学目的が達成されることを前提に行われるのであるから、我が国だけが独自の方法を行うべきものではあり得ない。当然、倫理的な観点から実験動物の処分であっても、できるだけ苦痛の少ない方法で行うべきであると国際的に認識され、実践されてきたことから、我が国でも実験動物の安楽死に関しては国際的に行われているのと同じような考え方にたって、同じ方法で行うべきである。

現在実験動物の安楽死法に関しては欧米では2つの著名な指針が存在する。その一つ目は欧州実験動物学協会連合、FELASAが1996年に出した指針である。またその指針にも引用され、国際的に広く引用されるのが米国獣医学会が1999年に公表した、安楽死に関する委員会報告である。我々は実験動物福祉の立場から、また実験動物医学専門医として、広く我が国でも本指針の理解が進むことを期待して翻訳事業を行い日本獣医師会雑誌に発表した。このたび新たにこの改訂が行われたことから、AVMA紙の編集委員長から日本語の翻訳権をいただけたので、改めて翻訳を行い公開する運びとなった。なお本翻訳事業に御協力いただいたHarry Rozmiarek, DVM, PhD、DACLAMペンシルバニア大学名誉教授に厚く御礼を申し上げたい。本書の刊行により実験動物福祉だけでなく、動物福祉全般、さらには安楽死問題の考え方一般の我が国での普及を望みたい。

大阪大学医学部 黒澤 努

目 次

監修にあたって
まえがき
序文

一般的な配慮

動物の行動に対する配慮

人の行動に対する配慮

安楽死に用いられる方法の作用機序

吸入剤 [吸入麻酔薬・二酸化炭素・窒素,アルゴン・一酸化炭素]

非吸入性薬剤 [バルビツール酸誘導体・ペントバルビタール配合剤・抱水クロラール]

T-61 [トリカインメタンスルフォネート(Tricaine methane sulfonate : MS 222,TMS)・麻酔下の塩化カリウム・安楽死に適さない注射剤]

物理的方法 [貫通ボルト・頭部への強打による安楽死・銃撃・頚椎脱臼・断頭・電撃・極超短波照射・胸部(心肺,心臓)の圧迫・捕殺用罠・粉砕・付随的な方法(放血・気絶・脊髄破壊)]

特別な配慮 [馬の安楽死・人あるいは動物の食用動物・特殊な種の安楽死:動物園,野生,水棲及び変温動物・動物園動物・野生動物・疾病に罹患し,負傷しあるいは生け捕りされた野生動物,または狂暴な動物種(鳥類・両生類,魚類及び爬虫類・水棲ほ乳類)・毛皮動物の安楽死・胎仔及び新生仔の安楽死・大量の安楽死]

あとがき

References
付表1 動物種別安楽死の方法
付表2 適切な安楽死の方法-その特徴と作用機序
付表3 条件により適切な安楽死の方法-その特徴と作用機序
付表4 不適切な安楽死の方法

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